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オイルシールとはどのようなパッキンか

オイルシールの仕組み・原理とは

 

オイルシールとは回転用シールとして代表的なシールです。
リップと呼ばれる軸との接触箇所で油膜を形成し、機器内部から密封流体の漏れを防ぐと同時に、
外部からのほこりの侵入を防ぐ構造・仕組み・原理を有します。

国内ではオイルシールの名前は有名ですが、海外ではRotary shaft lip-type seals incorporating elastomeric sealing element と呼ばれて言います。

 

規格では、立派な規格があります。
ISO6194-1~4迄を国内規格にしたJIS B 2402-1~4があります。
これらの規格を参照すれば大半はオイルシールの世界が理解できることになります。

 

オイルシールのJIS規格

JIS規格の構成を見ますと、

  • 第1部 寸法及び公差
  • 第2部 用語
  • 第3部 保管、取扱い及び取付け
  • 第4部 性能試験方法
  • 第5部 外観欠陥

となっています。

 

オイルシールの寸法及び公差

 

では、最初の第1部を見ていきますと
1の適用範囲では、軸径6~480㎜及びハウジング内径16~530㎜の範囲に適合した、ばね入り回転軸用オイルシールの寸法及びに公差を規定する。
オイルシールはゲージ圧0~0.03MPaの低圧条件で使用し、構造によって6タイプに分類する。となっています。
まず、注目すべき事項は圧力に制限を設けている点です。

 

図1 オイルシールの構造区分例
図1 オイルシールの構造区分例

 

図1にその代表的な6タイプの断面図を示します。(図はJIS規格からです)

 

構造的にはゴムのシール部分と、ばねと金属の枠があるというものです。
シールの密封機構はゴムの先端のリップ状のものがあり、これではり代を与えます。またそれをばねで圧縮するようになっています。

後は、ハウジングには固定用の若干のつぶし代を与え、金属製のリテーナーで抑える構造になっています。

その状態の装着部の箇所を図2の断面図に示します。

図2 オイルシール装着の状態(NOK社の技術資料から)
図2 オイルシール装着の状態(NOK社の技術資料から)

 

図2では右側が油側で、左側が大気側です。シールリップにはり代が分かりますと同時にばねがその部分を抑えているが分かります。またリップ先端での油膜がある接触部分が明確です。
この油膜の形成こそが、オイルシールが密封できる仕込み・構造といえます。

  • 軸の表面仕上げは

0.1~0.32μmRaとなっています。

2)軸の表面状態は、傷及び機械加工によって生じるリード目がないことと、仕上げは送りをかけないプランジ研削が望ましいとなっています。

3)軸の表面硬さは30HRC以上を推奨しています。

4 軸端の面取り(JIS規格より)

なお、図4d2は規格に規定されています(d1の大きさにより異なります)。 

4)ハウジングの穴径の公差等級はJIS B 0401-2H8となっています。

5)ハウジング穴の表面粗さ1.63.2μmRaですが、外周金属オイルシールを使用する場合は、気密性をよくするために表面粗さ0.4μmRa程度まで小さくすることが望ましいとなっています。

5 ハウジングの寸法(JIS規格より)

 図5の詳細はJISを参照していください。(個々に規定しています。)

なお、個々のどのタイプにオイルシールを使用するかは、メーカのカタログなどを参照ください。

特にNOK社の技術資料はきめ細かい内容を記載しているので、一度は是非見て設計や選択するためにご覧ください。

前に使用圧力の制限を記載したが、回転の周速はこのJIS規格には規定がないが、一般的には16m/sが最大であるとカタログに記載しています。

またリップ材料の選定には、通常ゴムであるが、次の選定基準がベースです。

・密封対象油に耐性があること

・環境温度に対し耐性があること

・耐摩耗性に優れていること

・耐オゾン性に優れていること

  ゴム材料では、主にニトリルゴム(NBR,アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(VMQ)やふっ素ゴム(FKM)があります。これらは適材適所の使用となります。

以下に示す条件の場合は、シールメーカと事前の打ち合わせが必要になります。

1)ゴミ・ほこり、砂、泥水などにさらされる場合

2)温度が120℃以上又は—20℃以下の場合

3)オイルシールに圧力(03MPa以上又は負圧)が作用する場合

4)軸の振れが025mmTIR以上又はハウジング中心のずれと軸のずれ(取付偏心)が0.1TIR以上の場合

5)軸周速が16m/s以上の場合

また密封流体の漏れは、ある程度カタログや各国の規格で規定されている場合がありますが、一律ではでありません。

しかしにじみ出し程度は許される場合がありますが、通常では、油漏れを起こしてはならないと決めている場合もあります。この場合の油漏れとは、常識的に油の滴下飛散、にじみ出しなどが無い程度をいうものとして、物理学的に完全に油を遮断することを意味しないことが多いようです。

 

オイルシール関連用語

 

またJISの規格を見ていきますと第2部ではオイルシールの用語について規定しています。内容は非常にきめ細かくあらゆる内容を網羅しています。

参考になりますので、一度内容を見てください。

https://kikakurui.com/b2/B2402-2-2013-01.html

 

オイルシールの保管、取扱い及び取付

 

3部では保管、取扱い及び取付けについて規定しています。

参考になる内容では、まず保管場所の場所は、温度30℃以下、平均相対湿度40

70%と規定されている。また当然であるが、積み重ねは避けることが重要であると説明されています。

面白い事柄では、ゴムを食べる昆虫及びねずみからの保護することが記載されています。その他は、通常ゴム製品に保管として常識的な内容が多い。

保管期限が参考に記載されている点に注目したい。

FKMが10年で、他のゴム(ACM,NBR,HNBR)は7年となっているが、残念ながらVMQが記載され

ていないが、常識的に判断すれば、FKMと同様と思われます。

取付では、シールリップには適切で正常な潤滑油を塗布するように記載されています。またダストシール付きオイルシールには、グリースをシールリップ間に充填することが記載されています。

また取付けでは、取付けジグの使用が規定されています。基本的には、安定した取付けが必要となります。

 図6 オイルシールの取付け(JIS規格から)

  なお、プレスはめあいをする場合も記載されています。これらの点は一般的なシール製品とは異なる状況であることを示唆しています。

 

オイルシールの性能試験方法

 

4部の性能試験方法では、オイルシールの性能試験方法について規定しています。またこの規格は、材料の物理試験、動的試験及び補足的な低温試験につても規定しています。またこれらは品質管理にも適用できます。

物理試験では、密度、硬さ、圧縮永久ひずみ、浸漬試験、空気中での熱老化、低温耐性も実施されます。

 

7 動的試験装置の代表例(JIS規格から)

7には、動的試験装置の例を示した図面です。

また規格では、これらの得られたデータの記録例も提示されており、これらを使用すれば、対象オイルシールの実績が評価できることになります。

 

オイルシールの外観欠陥

 

5部のオイルシールの外観欠陥について規定されています。

なお、基本的には、使用後の外観欠陥であるよりは、新品の品質管理上の欠陥を定義していると考えるべき事項と思われます。しかし、使用後の外観の変化内容も適用できるものでもあります(私見が入りますが)。

8に代表的な欠陥についての絵図が示されています。

その絵図とまた規格には写真でその欠陥のものが、分かるようになっています。

 

8 代表的欠陥の例 (JIS規格から)

またその例を写真で示した1例を図9に示します。

9 ばねのジョイント不良(JIS規格から)

 

樹脂製のオイルシール

 

今まで、ゴム製オイルシールを説明してきましたけれども、樹脂製のオイルシールもありますので、紹介します。

規格としては、次のISO規格があります。

ISO 16589 Rotary shaft lip-type seals incorporating thermoplastic sealing elements

     ISO 16589-1: Normal dimension and tolerances

        (寸法及び許容差)

ISO 16589-2: Vocabulary

     (用語)

ISO 16589-3: Storage, handling and Installation

     (保管、取扱い及び

      取付け)

  ISO 16589-4: Performance and

             Test procedures

      (試験方法)

  ISO 16589-5: Identification of

             visual imperfection

      (外観欠陥)

 このISO 規格は熱可塑性樹脂のシールエレメントとして用いたオイルシールであり、熱可塑性樹脂としては、一般的にはPTFE(四フッ化エチレン樹脂)が用いられています。

 残念ながら、JIS化されていませんので、国内では、JIS規格として見ることが出来ません。ISO規格を見る以外内容を詳しく知ることができません。

 規格の構成上は、ゴム製オイルシールでのJIS規格と同様な形態をしています。

 内容的にはほぼゴム製オイルシールと類似していると思ってください。

 ただし、図1に示すように通常のゴム製オイルシールと異なり、ばねが入っていません。

 また、固定側は、金属、ゴム+金属、ゴムの3種類があります。(図はISO規格から)

 

1 樹脂製オイルシールの形態

 

2 樹脂製オイルシールのエレメントの形式

 

当然ながら、現在、国内では、標準化されたカタログ等はあまりありません。

したがって、ゴムオイルシールと樹脂製オイルシールとの使用方法等の区別をどうすべきなどかは疑問が残ります。

推定使用可能範囲は圧力0.03MPa、周速

50m/s、温度—60℃から200℃です。

 現在、類似の製品が三菱電線工業(株)から発売されています。

以下の内容は同社のカタログや技術資料に基づいています。

まず同社ではPTFE製オイルシール(名称RLシールとなっています)と呼んでいます。

まず、概要では、次の紹介があります。

 

1)近年の装置の高性能化や多様性に伴 

う使用条件の過酷化に対し、ゴム製オイルシールではその材料特性から使用できない用途が増えています。

PTFE製オイルシールはPTFEのもつ優れた材料特性(耐熱性、化学的安定性、低摩擦性など)とポンピング効果を含むシール機能を考慮した設計により、ゴム製オイルシールやメカニカルシールよりもシンプルで、かつ信頼性の高いシールとなっています。

 

2)構造は図1に示すものです。

1 PTFE製オイルシールの構造

個々の構成部品は、外側の金属は内側と端面でプレス加工又はローラー加工によりかしめることで一体化になっています。

外周部の寸法は、正・負の圧力によるシール前後移動やとも回りを防止するために、ハウジングのボアー径に対して嵌め合いとなっています。その他、シール外周部にはシール性能を向上させるために、シール外周部にゴム系塗料の塗布によりシール機能を付加しています。

(この構成は前号で示した構成の一部を取り上げてカタログにしたものです。)

 

3)PTFEの材料の選択

・使用条件において耐摩耗性に優れた材料の選択

・熱膨張、クリープの材料の選択

・軸偏心および軸ブレに対する追随性の点から弾性モジュラスの小さい材料の選択

・摺動トルクの低減のために摩擦係数の小さい材料の選択

・組付け性、シール面のなじめ性の点から硬度の低い材料の選択

・密封流体(空気、潤滑油、水、蒸気など)に対する安定な充填材の選択

以上を配慮して各用途に対してベストの材料の選択が行われています。

4)PTFE製シールエレメントの形状

 PTFEの素材(この場合には、円柱状棒または丸棒)を切削加工して製造する。

 シール性能の向上及び安定化、耐摩耗性の向上を目的としてシールエレメント表面(軸と接する側に)には表1のような加工を施す場合があります。

 なお、切削加工してPTFEシールエレメントは、ケースと一体加工後(かしめ加工後)に癖付け加工を行うことで、所望の湾曲形状が得られます。

 

タイプ 特徴
プレーン
(溝なし)
<シール面に加工>
  • 気体およびグリスのシールに適用
  • ガスシール性に優れ、ドライ状態での使用も可能
  • 軸の回転方向は両方向に対応
ハイドログループ
(同心溝)
<シール面に加工>
  • 液体および気体のシールに適用
  • 面圧の部分的集中と油膜保持効果によりプレーンタイプよりも高いシール性能が得られる
  • 耐圧性に優れ、ドライ状態での使用も可能
  • 軸の回転方向は両方向に対応
ハイドロスレッド
(スクリュー溝)
<シール面に加工>
  • 液体シールに適用
  • 強制的に流体を密封側に押し戻す効果(ポンピング作用)と油膜保持効果により高いシール性能が得られる
  • 高速性能、偏心従属性に優れる
  • 軸の回転方向は片方向
カットバック
<シール湾曲部に加工>
  • 上記3タイプ全てに適用可能
  • PTFEシールエレメントの湾曲形状を変えることで、湾曲部への面圧集中を軽減し、耐摩耗性が向上

1 シールエレメントのデザイン

なお、一般的には表1のハイドログループとハイドロスレッドが多く用いられます。(この内容は、ISO規格には記載はなく、規格では溝なしのブレーンが標準です。)

 

5)金属ケースの材料

一般には炭素鋼を用い、耐食性の向上を目的として表面処理を行うことを基本としています。なお、更に耐食性を要求される場合には、ステンレス鋼などを適用されます。

 

6)ガスケットの材料

ガスケットは内部リーク(各部品間を通っての漏れ)を防止するために組み込まれており、適用材料は耐熱性や密封流体に対する耐性により選択しています。

通常は、ゴム製のガスケットです。

 

7)PTFE製オイルシールの性能

      PTFE製オイルシール オイルシール メカニカルシール
耐熱性
耐寒性
耐油性
耐薬品性
耐久性
高速性能
耐圧性能
耐異物性
偏心追従性
組み付け性
摺動発熱
シール価格
相手部価格

2 他シールとの性能比較(概論)

PTFEのもつ優れた材料特性とポンピング効果を含むシール機能を考量した設計により、他のシール(ゴム製オイルシール、メカニカルシール)よりメリットの多い製品と言えます。

7)PTFE製シールエレメントの使用例

実際の使用例について紹介していますので、図面・断面図とともに記載します。

①スクリュータイプコンプレッサー

使用タイプ(ダストリップ付耐圧タイプ)

使用条件

軸径:φ2024

回転数:3,00035,000rpm

流体:エンジンオイル、空気

圧力:-0.070.1MPa

温度:—40150

 

 

②クランクシャフト

使用タイプ(ダスト付リップタイプ)

使用条件

軸径:φ50200

回転数:7009,000rpm

流体:エンジンオイル

圧力:00.03MPa

温度:—40150

 

 

③カーエアコン用コンプレッサー

使用タイプ(ダストリップ付外周ゴムタイプ)

 

使用条件

軸径:φ1215

回転数:50012,000rpm

流体:冷凍冷媒(ガス+オイル)

圧力:0.11MPa

温度:—40150

 

 

 

 

 

最後に

ここまでお読みいただきありがとうございました。弊社は各種国内メーカーのオイルシールを取り扱っておりますのでご要望ございましたらお声がけください。

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