新シール概論(2)シールについて(特別号)

最終更新日: 公開日: 2023/12

 今まで、特に取り上げていないシール関連製品について説明してきましたが、一旦完了して、ここで、日ごろシールに感じている諸事項を述べたいと思います。

実にシールの世界は、奥が深いと感じています。いろいろな製品が溢れていますが、シールは認知度があまり無いのが、現実であるように思います。

シールと言えば、一般の人は張り付けるシール製品の感覚が多く、密封装置であるシールについては、知らない人が多いのも現実です。

多分、高専や大学の講座で、シールを取りあげているところは、ほぼゼロであると想定しています。

従って、社会人になって、仕事で携わっている中で、その存在を知った人が大半と思います。

時々、シールについて初心者に講習会などで説明する場合、手近にある製品から話をすることがあります。

その一例をここで述べますが、まず室内から話をします。

 

 皆さんがお持ちの時計にはシールが入っていることを説明し、次に入ってきたドアーの開閉装置(ドアークロザー)には通常装置に入っている油の粘性を用いており、かつそれらにはシールが無くてはならない存在であることを説明します。

続いて、トイレの給水装置やガス装置にシールが使用されているかを説明するとああそうかとの顔をされる方が多くいられます。

 

 次に大トラブルであつた実例を説明します。1986128日、ケネディー宇宙センターから打ち上げられたスペースシャトル・チャレンジャー号が打ち上げから73秒後に大爆発を起こし、乗船していた7名の宇宙飛行士全員が死亡した例です。

 その原因は使用したゴムOリングの材料の低温性が悪かったことと溝構造上の問題で発生したものです。

ただ1個のシールでも人命にも影響をすることがある例でした。

そのように説明するとシールの重要性を理解してもらいます。

この後、基本からシールの説明に入ります。

 

シールについては、多くの事項があり、勉強するもの大変です。数学のように公式があり、これに基づいて構成されている世界とも異なり、経験が多く入り込む世界でしょう。

以前には参考になる書籍などを紹介したことがありますが、皆様が大型の書店でも見られたら判りますが、シールに関する書籍はまず、店頭で見ることがないと思います。

書店に展示されている書籍は売れ行きのこともあり、日常売れないものは置かないのが一般です。その点で先ほど述べましたシールの認知度があまり無いことと連動していることになります。

残念ながらこのことは、現実です。

 

 

 上記で、シールの認識度について説明しましたが、しかし、シールは機械基礎製品であることには間違いないと思っています。いわゆる縁の下で産業を支える重要部品であることです。

 

 いろいろとこの業界にいますと基礎的な質問が多くあります。

 やはり、狭い業界ですが、シール製品が多くあり、適材適所に使用する必要性があり、その選択が重要であることです。

 特にシール製品の主力はゴム製品であり、使用温度に関する質問が多くあります。

 

 しかしながら、シール会社のカタログや技術資料には明確には明示されていないようです。

 最高使用温度の上限には、シール会社はばらばらの状態です。

 なぜでしょうか。ここには大きな落とし穴があります。

 すなわち、その使用時間が記載されていない点です。

 したがって、各社のばらばらの指示は、この時間との関係があり、各社の指示も間違いでもないのです。短時間ならば、ゴムの使用可能温度は高くなりますし、長時間ならば、指示温度も低くなります。

 

 ご経験で存知でしょうが、家庭用家電では、部品は約8年程度でしか、保管されていないようで、従って、約10年程度で寿命となるように設計しているよう感じます。

 また最近では部品交換より、買い替えるようになっているようになっているように感じる次第です。

 

 シールのゴム材料でも先ほど述べましたように特に最高使用温度は使用可能時間との関連で捉える必要があります。

 例えば、ふっ素ゴムFKM)では最高使用温度では200℃がカタログなどで指示されていますが、それでも使用時間が明らかになっていません。常識的に言えば、シールが使われている機器では、10年以上の期間まで、使用が可能でしょうか。

 

 やはり、通常機器のメンテナスがあり、経験や実績により、シール製品の交換もされているのが、現状でしょう。

 自動車では定期点検で部品の交換などは規定されているようです。

 飛行機などでは、フライト時間により、部品の点検や交換が明示されている場合が一般ですので、その点での安全度が高いのでしょう。

 シール製品で固定用のOリングなどでは、寿命は圧縮永久ひずみの数字で捉えて、判断ができることが経験からわかっています。

 いわゆる80%のひずみが発生すると漏れが生じることがあり、その時点が寿命とする80%説です。この点については、過去の試験でも実証されていますので、寿命を推定するには適しています。

 

 さらにこの説と同様に温度10℃下がれば、寿命2倍になることもシールの世界ではいまや常識になりつつあります。

 これはアレニウスの定説が基礎になっており、経験上も合致しています。

 やはりゴム製品は化学物質であり、温度による影響が大きいのは当たっています。

 

 

さらにシールゴム材料と温度の関係について、説明します。

 

以前、ゴム材料は温度依存性が大きいと言いましたが、

これは温度が室温(常温)以上の世界であり、それより低い温度では別の世界となります。

すなわち、低い温度では、ゴムの温度による劣化現象を伴わないと言うことです。

 

一旦、ゴム材料が低温に晒されると、確かにゴムの硬さは低くなり、ゴム弾性も失いますが、

元に温度に戻れば、元の状態にゴム材料が戻ります。

あくまで、物理的な現象で、化学的な劣化は殆ど受けないことです。

 

しかしながら各ゴム材料の低温性は個別の値であり、統一のものでありません。

今まで経験では、低温弾性回復温度(TR試験、JIS K 6261)において、

室温で100%伸ばした試験片が低温側で元の10%回復する温度をTR-10値と言います。

 

一例ではFKMで、TR-10値=-17℃という結果が得られると

そのゴム材料の低温性が次のように求められます。

流体が液体の場合にはそのゴムの漏れない限界は=TR-10値―10℃となることが、実験などで実証されています。

先ほどのFKMの例では漏れる限界は—27℃が限界であるということです。

ただし、流体が気体の場合はTR-10値の温度が限界であるということになります。

現在、詳しい内容は知りませんが、シールの扱っているISO/TC131/SC7でこの低温について審議しているようですので、 また新しい定義などがされる可能性がありそうです。

 

現在のゴム材料でもっとも低温性のあるゴム材料はシリコーンゴムです。

あるデータではTR-10値が—60℃のものもありそうです。

話は別になりますが、シールについて寿命について運動用でどうですかとの質問が多くありますが、

どうも何時も正解はだせそうもありません。

多くの要因もあり、一概に答えられないが現状です。

特に、空気圧機器では現在、常識的にシールの部品交換は原則としてはなく(一部例外はありますが)、 寿命まで使用するようになっています。

古い話では、往復動用途では走行距離が5,000kmと言われていましたが、

多分、現在ではその倍までになっている様です。

 

油圧機器では、メンテナスでシールは交換することが多いようですが、

そのタイミングは、過去の実績などにより、異なるようです。

機器も昔とは異なり、機械加工の技術も向上して、

重要である運動用のシール相手面の面粗度も相当、変わっているようです。

 

表面粗さ以外にも面の性状が変わり、所謂シールに適した油溜めに適したものが、

採用が多くなっているように聞いています。

この点に於いては、日新変わりつつあるように感じています。

 

他方、多くある質問は各種シールの基本的な使用基準についてのものが多くあります。

各種シールでは、一応カタログなどで指示されていますが、

それより少しずれた場合の質問が多いようです。

 

 

シールの設計については、案外秘密事項が多いことをご存知でしょうか。

例えば、Oリングの場合には寸法が明確に示されているので、

使用するハウジングなどは、正確に設計できます。

 

他方、往復動用のシールに使用されているUパッキンについては、

各社とも詳細寸法は、表示はしていないのが、現状です。

パッキンのいわゆるはり代は不明ですので、

カタログや取り交わす図面にもノウハウで明示されていない。

 

同様に組合せシールでは摺動側に付属する部品の寸法は、

基本的に明示されていないのが、一般です。

この例はUパッキンと同様の理由です。

 

そうみると案外、不親切な業界のイメージを持つかも知れませんが、

一種の企業機密に属することが多いようです。

 

他の質問で多いのは、ゴム材料と使用する流体との適合性の問い合わせです。

 

例えば、環境問題で、取り上げることも多いのは冷媒ガスです。

どんどんと新しい冷媒ガスが出てきますが、

それに適合するシール用ゴム材料で、なにを使用するかです。

現在、主力はHNBREPDMなどになってきていますが、

やはり実験を行い明確にする必要があるようです。

この場合には同時に使用される冷媒油にも影響するので、 セットで考える必要があります。

 

脱ガソリンで水素を使用する機器が増加傾向にありますが、

高圧ガス(水素)の場合には、ゴム材料に発生するブリスター現象に注目する必要があります。

これには、現在EPDMの使用がメインで使用される方向性が出ています。

80MPa程度の高圧であるためと水素との適合性の関連があります。

国内では関連の規格作成の動きがありますので、さらに明確になると思われます。

各種流体とゴム材料の適合性は個々の実験が必要ですが、

種類が多いので、この試験が大変な仕事です。

多分、シールメ-カーではこの関連が大きなウエイトを示すかもしれません。

 

ただし、実際には最近、あまり微々に神経質になる必要があるか、疑問になることがあります。

例えば、10%程度の膨潤が実際の使用する場合、問題にならないと思っています。

各社の技術資料やカタログに記載されている程度の

使用可否程度(流体とゴムとの適合性資料)でも十分に活用できると思っています。

(このあたりには、異議を言われる方が多いかも知れませんが)

 

なぜかと言いますと、この実験では、流体にゴム材料を全体に浸漬して行うのですが、

実際には使用環境ではシールは圧縮され(つぶされている)て、

一方のみに流体が当たるのが多いので、データより影響は少ないなる点に着目するためです。

 

ただし、全てではないことは、注意ください。

 

 

 

さらに話は続きます。

多い質問では、やはりシールの選定についてです。

 

基本的には、規格されているシール製品やカタログアイテムになっているものを

まず選定の基準になります。

 

理由は明確ですが、新たなシール設計をした場合には、

ゴム部品であれば、新規に製造するための金型が必要になることがどうしても多くなります。

 

シール用金型は製品の大きさや形状により、また製造数の大小によりますが、

取り数などにより、異なりますが、約20万円以上が掛かります

(諸条件によりますが、50万円以上になる場合もあります)。

 

金型を作成すると初期に費用がかかり、どうしても新規のシール製品の価格に影響します。

この点、カタログアイテムになりますと、シールメーカが既に金型を作成済ですので、

初期の金型費用は無くて済みます。

この点のメリットは大きいです。

 

また、製品には在庫品も準備されている場合もあるので、

納期の問題はあまり気にする必要はありません。

 

その他、カタログ品でも異なるゴム材料で製造しますと

正規の寸法にならない場合もあるので、注意が必要です。

 

このような場合には時々問題になるのは、

メーカは相当寸法で製造しますとの説明があり、

客先に予め了解を得る必要があることがありますので、

メーカの言い分を参考に使用可否などを検討することになります。

 

同系統のゴム材料では、特に問題は少ないですが、

例えば、正規の製品がNBRである場合にFKMで製造しますと、

ゴムの製造時のゴムの収縮率の違いで、径方向などでは大きな変化が生じるので、

無理な場合が多いようです。

 

以前にこの相当寸法で揉めた場合が多々ありました。

ユーザはどうしても金型費用を出したくなく、

既存の金型で製造を希望されると先ほどの問題点が浮き彫りになります。

 

なお、金型を必要としない場合の製品ではこのような問題はありません。

しかし、実際にはこのようなケースは少なくて、常に金型が問題になることが多いようです。

 

シール製品で製作して作成する製品群はこの点は楽で、常時新規製品への対応が図れます。

 

最近では、試作などでは、金型を製造せずに、

製品を切削して作成して評価試験などを実施してから量産に移る場合も多くなりました。

 

シール選定については、病院のカルテ等のようなものを作成して諸条件を漏れなく記載して、

メーカと相談することをお勧めします。

 

この諸条件が実は、問題がありまして、

ユーザの常識とメーカの常識が一致せず、抜ける場合があります。

 

昔の話ですが、自動車関連のシールの材料を開発中に

耐オゾン性がメーカでは、抜けて、

途中で仕様に追加した場合がありました。

このようなことが無いように万全を期すことが求められています。 

 

 

シールの選定について述べましたが、まだ幾分か説明したいことがあります。

 

カルテのようなものを作成して、漏れなく仕様を記載の上、シールメーカとの打ち合わせとなりますが、
特に新規な製品で、機密事項もある場合には、秘密保持契約などを交わす必要がる場合があります。

 

開発品となりますと提案されたシールで、特許が取れるケースもあり、そのあたりに注意が必要です。
この場合には一般的には、両者が当事者となり、共同提案で行うのが多いようです。

 

また開発には、種々の試作や実験も伴う場合には、
その費用についても事前に両者で打ち合わせが必要です。
過去の話ではありますが、これらの開発には相当時間を費やすこともあり、
シールメーカでは開発品目として取り上げ、研究費を計上して実施することもあります。
このようにして、新製品が生まれることが多い。

 

その他、シールメーカでは各社で新規にカタログアイテムになるようなシール製品を開発して、事業化する場合も多くあります。
このあたりになりますと、その会社の実力が物言うことになります。
簡単に述べましたが、実は大変な事項で、開発に費用も時間もとりますので、
各社は研究開発費を別に計上して取り組むことになります。

 

シールの規格について、少し述べておきます。規格の誕生には相当の時間の経過が必要で、
次のようなステップを踏むことになります。
1段目にはある会社で、新規のシール製品が先ほど述べましたような経過で誕生しますと、
その会社はカタログアイテムとして市場に出します。
2段目にはその製品が市場で受け入れられて、認知される。画期的な製品であるほど、
認知度が向上して、その価値が生まれてきます。
3段目には、その業界の工業会で工業規格として、審議されて、その製品の規格が作成されます。
4段目には、工業会規格が国の規格(JIS)化する価値があるとすれば、審議されてJISの誕生となります。
最終段目には、その国の規格から世界の規格(ISO)として取り上げることなります。
このように、企業規格(カタログアイテム品)から、工業会規格を経て、
国の規格へ最終的には世界規格になることもあり得ます。
このようなシール製品が出てくることを多く望みます。

 

次回には、もう少しシールに関する規格について説明したいと思っています。
どうしても、このシールの狭い世界で、案外、多くの規格があります。
やはり、長い歴史の中で、関係者のたゆまぬ努力があったのです。

 

 

シールと規格との関連について、もう少し詳しく述べたいと思います。

まず、シール製品の規格は案外少ないと思っています。
もっともシールの中でも代表であるようなOリングでも長い歴史の中で、
多くの遍歴があり、現在のOリングの規格があります。

日本独自のミリのものは、確実に定着しているのは、明確ですが、
世界の動向の中では米国のインチ系列がやはり強烈に大きな存在であり、
ISOの関連もあり、JISにも導入されてきました。
どうして、国際規格のISOはミリの世界ですが、
インチ系列のインパクトも大きく、採用されています。
昔、ISO関連の仕事に関与して時代には、
このインチとミリの世界で揺れ動いた記憶が残っています。
規格の取り扱いに関しては、国内の優れたJIS規格がありますが、
30年程以前から、ISO規格の国内導入が促進され、漸次導入された経緯があります。
国内の優れたJIS規格もISO規格への採用を強く動いていますが、
今一つ中々、難しいのが現状でしょう。
しかし、Oリング以外のシール製品のISO規格は真のミリの世界になっています。
シールの規格では他方、ゴムに関連する規格が多くあり、多いに利用、適用されています。
以前にも詳細にこの関連の規格は紹介をしていますので、
是非、興味のある方は、このFAX通信の古いものから見出してください。
しかしながら、規格は時代と共に改変が常識ですので, 参考にする場合は最新の規格を手にして見てください。

規格の話はこれで終わりして、最近のシールの製品の新しい手法を述べておきます。
これは、以前にも説明したのですが、有限要素法(FEA)です。
この手法は一種の応力解析であると言ってもよいものです。
現在、この手法により、製品開発から、無くてはならないものになっています。
古い話ですが、筆者の卒論は光弾性に関するもので、
一枚の円板上に3点の力が加わった場合の応力解析でした。
当初では計算式を導入して、数字を入れて昔の計算機(当時には回転式で数字をいれて、手動で回転するものでした。当然、電卓もありませんでした。)で計算してその結果を図示化して、
光弾性と対比して計算式の妥当性を証明しました。
現在では、このような簡単な解析はこの有限要素法で、短時間で解析できるでしょう。
ゴム製品への応用には相当時間を要して様ですが、現在では良いソフトも出て、日常で適用できるようです。
この手法はシールの実際の使用時の動きにも使用されて、目で見えるようになり、非常に便利になっています。
今後とも、大いにこの有限要素法は色々のところで使用されていくでしょう。
やはり、時代と共にこのような手法が多く実現して、便利になるでしょう。

 

 

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