新シール概論(3)シールの定義、シールの分類
2023.05.31
■発行日:2023年1月1日発行[2023年5月31日更新]
いままで、このシール概論を開始してから約22年を経過しました。
非常に長い期間にわたり、述べてきましたが、ここで再度初心に戻り、新シリーズとして同じような内容になり、過去に述べた内容と重複する点が多くあるかも知れませんが、述べさしてもらいます。
ひと昔とは、10年ぐらいとよく言われますが、やはり20年前となると相当古いとの感覚になります。当然、読者も替わられていると思いますので、宜しくお願いします。
シールの定義
英和辞典によれば、Seal:標章、印鑑、 封印、封、密封材、封じ、アザラシ(動物)などと確かに、密封という言葉があります。
けれども一般には密封材としてのイメージがあまり無いようです。
シールの定義について日本工業規格 JIS B 0116「パッキン及びガスケット用語」に「流体の漏れまたは外部か らの異物の侵入を防止するために用いる装置の総称」となっています。
従って、漏れを止める装置となりますが、これ以外にも外部から異物の侵入防止との定義があることが、忘れがちになります。
あとで、パッキンとガスケットの分類などは説明しますが、いずれにしてもシールは国内では、密封装置と訳して表現することもあります。
漏れの定義とはシール部分から流体や固体などが流出または流入する現象です。
シールは各種の油空圧機器に組み込まれており、外部から見えませんので、その存在さえ知られていない場合がほとんどです。
しかしながら、ほとんどの機器においては、そのシールの優劣がその機器の機能を左右させるものであり、重要製品であると認知されてきた感があります。
最近は各油空圧機器の性能のレベルが上がると同時にシールに要求される特性が益々厳しくなってきました。
特に、油圧用途では、高圧化、耐久性をまた空気用途では、高速化、耐久性などがあります。当然のことながら、漏れゼロ要求は基本的な項目です。
シールの分類
シールの種類(分類)には、用途別、構造形状別、材料別などの方法がありますが、正式には、まだ確定されてないのが現状です。
その理由は、数多くの種類のシールがあり、分類が困難になっているからでしょう。用途別で、大きく分類しますと、
- 運動用シール: 往復運動、回転運動、らせん運動などの箇所の密封に用いられる運動用シールをパッキン(packing)と呼ばれています。
- 固定用シール: 静止箇所の密封に用いられる固定用シールをガスット(gasket)と呼ばれています。
シールの定義
- 運動用シール(パッキン)
- 固定用シール(ガスケット)
- (Oリング、角リング、金属中空Oリング、金属Cリング、非金属ガスケット、金属 ガスケット、メタルジャケットガスケット、渦巻形ガスケット、液状シール)
以上のように分類できます。
ただし、このような分類には定まったルールはありません。
かつ、ここで取り上げたもの以外にも多くのシールが存在します点、気を付けてください。
なお、お気づきでしょうが、O、X、D、T、V、U、Wなどローマ字で呼ばれる名称がありますが、これらはその形状がその形に近いからです。
次の言葉が今後出てきますが、ここで説明しておきます。
- スクィーズタイプ(squeeze type)-つぶし代を与えて使用するタイプ(代表にはOリングがあります)
- リップタイプ(lip type)-リップ形状を持っているタイプ(代表にはUパッキンがあります)
単純圧縮などのタイプ(代表には金属ガスケットがあります)
各シールの概略
ではここで、各種のシールについての概略を説明します。
- Oリング
- 低コスト
- 密封に方向性がない
- 構造が簡単
- 小型なので、小空間で使用可
- 装着部の設計が簡単
- 広範囲の条件(流体・温度・圧力)で使用可
- 溝部の設計に注意がいると同時に、運動用では、摺動面は滑らかな仕上げが必要。
- 運動用の場合、始動抵抗が大きい。また往復運動ではねじれ易い。
- Xリング(ゴム製)
- Dリング(ゴム製)
- 組み合わせシール
- Tリング(ゴム製)
- リップタイプ
- オイルシール
- Vパッキン(ゴム製)
- Uパッキン
- その他のリップパッキン
- その他

図1 Oリング
Oリング(ゴム製)は図1に示すように丸い断面形状をした環状のシールであり、断面形状が丸いためにOリングと名付けられました。
使用方法は、図2のように長方形の溝の中に装着し、つぶし代(圧縮量)を与えて、その反発力で流体を密封します。

図2 Oリングの使い方
Oリングは、運動用以外に固定用シールとして使用できます。(こちらの方が圧倒的に多い)
その主な特徴は、以下となります。
Xリングとは、下図に示すようにX状断面をした環状のシールです。Oリングが往復運動用に使用されるとねじれ易いため、その代替として考案されたものです。

図3 Xリング
使用圧力が高くなると、圧力により断面がX状から角形に変形し、Xリングの特徴が無くなるので、低圧用途(1MPa程度)に限定されます。
なお、最近、Xリングは摺動抵抗が小さく、またXリングの凹部にグリースを充填できることから油圧用以外の空気圧用にも使用されています。
Dリングとは、下図に示すように断面がD状をした環状のシールです。

図4 Dリング
下図に組み合わせシールを示します。

図5 組み合わせシールの例
Oリングや角リングなどのゴムシールと摺動面は主として四ふっ化エチレン樹脂製リング(一部ウレタン製やナイロン樹脂などもあります)を組合わせたシールで、スリッパ―シールやキャップシール、グライドリング等種々の名称のものがあります。ゴム製のシールが密封に必要な反発力を樹脂製リングに与えて密封する構造です。図に示すように、シールメーカーから種々の設計のものが販売されています。これらは、四ふっ化エチレン樹脂の低摩擦性、耐摩耗性、耐はみ出し性の利点を生かした特徴の多いシールです。
図6に示すように、両側に合成樹脂製バックアップリング(圧力によるゴム製シールのはみ出しを防止する目的で用いられるリングで、四ふっ化エチレン樹脂製が多い)を併用した断面がT状の環状のシールです。一般にOリングの代替で使用され、摩擦抵抗がOリングの約3割程度低く、かつシールのねじれなどがなく、高圧、高速などの特殊用途に用いられる。

図6 Tリング
オイルシール(rotary shaft lip type seals)は、図7に示すように、主として回転軸の軸受部から潤滑油の漏れを防ぐために用いられるシールです。 一般的なオイルシールの構造は、図7のように密封の主体であるゴム部とそのゴム部に常に一定の緊迫力を与えるガータ形ばねとシールを補強し、相手ハウジングに勘合させる金属製環リングから成り立っています。

図7 オイルシールの使用例
オイルシールの特徴は、以下が挙げられます。
■軸受部からの潤滑油の漏れを防ぎ、外部からの水、ダスト等の侵入を防止する
■回転トルクが低く、密封性能が良い
■比較的コンパクトで取付け、取り外しが容易です
■高速まで使用できるが、圧力が0.05MPa以上になると通常の規格品が使用できず、特殊耐圧仕様のオイルシールが使われる形状には種々のものがありますが、図8(次号に記載)に示すようにJISの規格品が通常使用されています。

図8 オイルシールの種類(JIS B2402)
Ⅴパッキンの歴史は古く、いまでも広く信用のあるあるシールと用いられています。JIS B 2403には、ゴム材料と布入りゴム材料のⅤ パッキンがありますが、皮や四ふっ化エチレン樹脂のものも使用されています。
図9に示すように、数枚を積み重ねて使用します。なお、高圧使用ではⅤパッキンに軟質金属製アダプタを組合わせて用いられる場合もあります。

図9 Vパッキンの使用例
Vパッキンの特徴は、以下の通りとなります。
■極めて密封性が良く、高圧に耐え寿命も長いが他のシールと比較して、スペースが大きく、また摩擦抵抗が大きい
■大きな偏心も許容できる
■漏れる場合、増し締めにより改善できる
Ⅴパッキンの枚数を変えることにより、使用圧力を上げることができる
Uパッキンは、断面形状をほぼU字形を下環状のパッキン(リング)です。図10に各種のUパッキンの例を示します。通常、往復動用シールで最も数多く使用されています。

図10 Uパッキンの種類例
図11に示すようにその他のリップパッキンがあります。

図11 その他リップパッキンと使用例
・カップパッキン:カップ状のピストンパッキンで、外径側のリップで密封を行う成形パッキンです。(Lパッキン又は皿パッキンともいわれます)
・フランジパッキン:内径側のリップで密封を行うフランジ形の成形パッキンです。(Jパッキン又はハットパッキンともいわれます)
・Wパッキン:断面がW形をしたリング状の成形パッキンで、基本的には単体もしくはフィンガスプリングなどを補助してリップ部を圧縮し、その接面圧力で密封します。
・グランドパッキン:図12に示すような構造のパッキンです。

図12 グランドパッキンの使用例
一般に断面が角形で、スタフィングボックスに詰め込んで用いられる。主として、ポンプや圧縮機の回転軸に使用され、歴史的にも最も古いパッキンです。グランドパッキンの材料では棉、合成繊維、樹脂、軟質金属などがあり、それらを格子編み、八っ編み、袋編みした構造のものが多く使用されています。
以前は材料として石綿が多く利用されていましたが、現在は禁止になっています。その特徴は、
・軸の偏心に対して追従できる
・増す締めできる。但し密封性を上げるために増す締めをしすぎると、摩擦抵抗が大きくなり、発熱して寿命が短なる
・詰めるパッキンの数を増して耐圧に対応できる
なお、今まで(以後も)紹介しました図面と内容は、日本規格協会発行の密封装置の選定ポイントを参考にしています。
(続く)
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