かつてガスケットとして広く流通していたアスベストガスケットは、その柔軟性と密着性から多くの現場で重宝されていました。しかし、健康リスクから使用が禁止され、現在はノンアスベストガスケットが主流となっています。
アスベストガスケットとノンアスベストガスケットを比較すると、アスベストガスケットのほうが柔らかいため、ベテランの作業員の方からは「アスベストガスケットは扱いやすかった」というお声もいただきます。今回のブログでは、ガスケットの硬さに着目しました!
ガスケットと硬さの関係
ガスケットを選定する際に、あまり硬さを気にすることは少ないかもしれません。しかしガスケットの硬さはシール性などに関わる重要な要素になります。「柔らかい=良い」や「硬い=悪い」などという単純な話ではなく、大事なのは使用条件(温度、圧力、流体、フランジ材など)に合った硬さを選ぶことです。その選択の選考になればと思います。
ガスケットの硬さとは
ガスケットにおける「硬さ」は主に以下の指標が関わります。
- 硬度(ショアAなど):主にゴム系の材料で使用される硬さの目安。
- 圧縮率:ガスケット材の圧縮性と復元性の評価に用いられるASTM F36などで測定。柔らかいほど圧縮率は大きい。
- 圧縮応力:ガスケットを一定の割合つぶすために、必要な力。硬いもののほうが力が必要になるため、数値は高い。
柔らかいガスケットの特徴
柔らかいガスケットには以下のようなメリットがあります。
- 締付トルクが小さくても(低圧)フランジ面に馴染みやすいためシール性が高い。
- キズやゆがみ、凹凸があるようなフランジ面にも入り込み、密着するため漏れ防止に有利。
- ハサミやカッターでも加工しやすいので、緊急時の対応も可。
樹脂フランジや、試験設備、低圧配管、手締めする場所などには有効です。ただし、トルクをかけすぎると、つぶれすぎ、押し出されるということもありますので、ご注意ください。
硬いガスケットの特徴
硬いガスケットには以下のようなメリットがあります。
- 高圧、高温、振動環境など、高面圧をかける場合安定したシール性を実現。
- 圧縮永久ひずみが小さく、耐久性が高いため長寿命。※使用条件による
蒸気ライン、高圧配管、金属フランジには向いています。ただし、ナイフなどでの加工はほぼ不可で打ち抜き加工が必要なことや、均一な締付が必要という施工精度が要求されますので、ご注意ください。
ガスケット硬度選定時の確認事項
以下の項目を硬度やガスケット選定にお役立てください。
項目 | 柔らかいガスケットが適するケース | 硬いガスケットが適するケース |
---|---|---|
フランジ材 | 樹脂・アルミ(変形しやすい) | 鋼・鋳鉄(剛性が高い) |
トルク条件 | トルク制限あり(手締め・軽締付) | 高トルク使用可能(トルクレンチ等) |
フランジ面状態 | 傷・凹凸あり(古い配管など) | フラットで平滑 |
使用圧力 | 低圧(~0.5MPa) | 高圧(1.0MPa以上) |
作業頻度 | 分解・再組立が多い(定期保守) | 常設でメンテナンス頻度が低い |
設計思想 | 簡易・軽量・仮設用途 | 常用・高負荷・長期耐久を求める場合 |
ゴムガスケットとシートガスケット
シートガスケット(ジョイントシート)はゴムと比較すると硬いものです。柔らかいガスケットの代表ともいえるゴムとシートガスケットを比較してみます。
シートガスケットとは
シートガスケットとは、シート状の材料から必要な形、サイズに切り出して使うガスケットのことです。シートガスケットの構成は、主に「繊維+バインダー(結合剤)+充填剤」でできています。この素材の組み合わせで、耐熱性、柔軟性、耐薬品性が異なり、使用条件によって選定します。
素材の選択肢が多く、形状の自由度が高い特徴があり、配管フランジの接合部・バルブやポンプの接続部・タンクや容器のカバー部などで使用されます。継ぎ目や接合部という意味のJoint(ジョイント)を用いて「ジョイントシート」とも呼ばれています。
ゴムシートガスケットとは
ゴムガスケットとは、柔軟性や弾力性をもつゴム素材のシートから必要な形、サイズに切り出して使うガスケットのことです。柔らかいためシール性が良いです。低圧~中圧の配管や装置のフランジ接合部で使用されます。ゴムの材質、色、厚みなど選択肢が豊富でこちらも使用条件によって選択できます。
ジョイントシートガスケットとゴムシートガスケットの使い分け
似たような場所で使用されることも多い、ジョイントシートとゴムシートについて、違いや使い分けを以下の表にまとめました。
ジョイントシート | ゴムシート | |
---|---|---|
材質 | 繊維+バインダー(結合剤)+充填剤 | ゴム単体(NBR、EPDM、FKM、シリコーンなど) |
柔軟性 | ○ 中程度(手ではやや曲がりにくい) | ◎ 高い(手で簡単に曲げられる) |
使用温度 | ~200℃(材質により異なる) | ~80~120℃程度(FKMは高耐熱) |
使用圧力 | ~3.0MPa(中~高圧まで対応) | ~0.5MPa程度(材質による) |
耐薬品性 | ◎(PTFE・グラファイト系などの場合) | 〇(EPDM・FKMなどの場合) |
加工性 | 〇 トムソン型などで打ち抜き・CAD切削 | ◎ 打抜き、場合によってはカッター・ハサミで簡単加工 |
価格帯 | 中価格帯 | 安価~高価(材質により変動) |
主な用途 | 蒸気ライン、汎用配管、薬品ライン、高温高圧設備 | 水・空気・油の低圧配管、仮設配管、振動吸収部 |
低トルクで馴染みが優先→ゴム系、高温や高圧で耐久性重視→ジョイントシートなど使用用途によって、材質選択は様々です。
柔軟性を兼ね備えたジョイントシートBA-SOFTとは
では柔らかさを兼ね備えたジョイントシートがあれば、シール性や使用条件の制限をクリアできるのではないでしょうか。
BA-SOFTとは
スロベニアにあるDONIT TESNIT社が提供するジョイントシートです。
合成繊維+特殊充填材+NBRバインダーで構成され、柔らかく、復元性があります。
BA-SOFTの特徴
- 低圧でも高いシール性を実現:締付トルクが低くてもフランジ面の凹凸にフィットするためシールしやすいです。
- 高い圧縮性と復元性:圧縮した後の復元性に優れているため、時間が経過してもしっかり閉じられた状態を保ちます。
- 海外規格に対応:WRAS(英国の飲料水設備に使用される材料の適合認証)、FDA(米国食品医薬品局が定める食品接触材料の安全基準)、EC1935/2004(EUにおける食品接触材料の安全に関する規則)などの規格に対応しているので、輸出時など対応可能です。
BA-SOFTまとめ
BA-SOFTは、柔らかい特性を活かして、あらゆる現場で活躍するジョイントシートです。
特に「締付トルクをあまりかけることができない」「手締めや簡易な施工でも確実にシールしたい」などのフランジ接合部に使用できます。柔軟性があるため、フランジ面の凹凸にも追従し、充分な密封性を発揮します。
また、海外へ輸出をお考えの場合、その輸出国に応じた規格対応部品の使用を求められるケースが多いですが、その時にもBA-SOFTはおすすめです。食品や飲料、水道など高い安全性が求められる場合も国際規格に対応しています。
最後に
今回はガスケットの硬さに注目して記載しました。ガスケット選定は、使用温度、流体、圧力などの使用条件で選定されますが、作業性や締付、使用期間などにも注目すると使用するガスケットは他の選択肢があるかもしれません。この記事もその選定にお役立ちできれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。