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パーフロ(FFKM) Oリングの不足・納期問題は、被覆Oリングで代替可!

コロナ禍以降、パッキンを取り扱う弊社へ、パーフロの在庫有無に関するお問い合わせをいただくことが急増しました。

お問い合わせいただいたお客様へご事情を伺うと、「パーフロの納期が長期化して入手困難になり困っています。」や「メーカーから受注停止の連絡があり、パーフロの代わりに使えるパッキンを探しています。」といったお声を聞きます。半導体をはじめとして、様々な部品や部材の入手性が著しく落ち込んだ昨今と言えるでしょう。

弊社ではパーフロのパッキンを原則在庫保有しておりませんが、パーフロの代替製品をご提案し、ご希望納期に間に合わせることができた実績がお問い合わせ数とともに増えました!

そこで今回は、パーフロOリングが入手困難になった経緯と弊社でのパーフロの代替提案事例を紹介させていただきます。

パーフロとは?

そもそも「パーフロ」とは、どういった定義でしょうか?
工業用途において最も汎用のゴム材質である「NBR」と比較するとあまりメジャーではないため、普段ご使用になられていなければご存知ないことが多いと思います。

パーフロとは、耐熱性/耐薬品性・耐溶剤性/耐スチーム性/クリーン性などといったあらゆる面で非常に優れたスペックを有しており、ゴムにおける最高クラスの性能を誇る材質です。
驚いたことに、工業用設備では耐熱性や材質物性などの複合的な要因から、パーフロしか使用検討が不可な箇所があるほど、他の材質を凌駕していると言われています。
その用途も多岐に渡り、半導体業界や化学業界などの様々な業界の様々な設備で採用されています。

また名前の由来は、正式名称が「パーフルオロエラストマー」というため、一般的に略して「パーフロ」と呼ばれることが多いです。
尚、有名な「カルレッツ®」とは、デュポン社製パーフロの製品名を指します。

このように最上級ランクを誇るゴム材質ですので、その代わりに使用できる製品もあまり知られていないことが現実です。しかし、冒頭の通り弊社ではパーフロの代替製品の受注数が非常に増えておりますので、このブログの後半で紹介します。

化学構造からみるパーフロ

パーフロはフッ素化合物になります。フッ素化合物は、医農薬品、ディスプレイ材料、半導体関連材料など、さまざまな分野で活用されています。

パーフロの化学構造の前にフッ素ゴム(FKM)の化学構造をご確認ください。


これが最も一般的な構造になります。炭化水素結合(C-H結合)が1つで、他はフッ素結合(C-F結合)になります。フッ素結合は、炭素と水素の結合よりも大きくて安定しているため、耐熱性や耐薬品性が良いとされています。

パーフロはFFKMと表記されるようにフッ素ゴムFKMのハイグレード版と言えます。パーフロはテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)の共重合体です。主鎖であるTFEは炭素とフッ素のみで形成され(分子式:C 2F)、FKMにあった炭化水素結合(C-H結合)がありません。C-F結合エネルギーがC-H結合より大きく、また分子の大きさが小さいため、骨格となるC-CをF原子がガードし耐薬品性が非常に優れています。

ちなみにTFEが重合したのがフッ素樹脂であるPTFEになり、耐熱性や耐薬品性に優れていることが知られています。パーフロはPTFEの耐熱性や耐薬品性にゴム弾性が加わったものとも言えそうです。

価格からみるパーフロ

パーフロは非常に優れた材料であるがゆえに、価格が高い商品です。FKMと比べて、あるメーカーのパーフロは約70倍の価格で販売されています(※当社仕入のAS568-157で比較)。価格が高い理由として以下の点が考えられます。
 
・FFKM原料ゴムを製造するに際して、全フッ素化は重合が大変である→原料ゴムが高価となる
 
・ゴムにするため架橋するのも大変で歩留まりが悪い→製品が高価となる

ただしパーフロはメーカーによっても価格がそれぞれ異なっているのが現状です。

パーフロメーカーについて

パーフルオロエラストマーの素材メーカーを紹介します。弊社が販売しているパーフロOリングはカルレッツ他、紹介するメーカーの素材でシールメーカーがOリングとして製造加工したものになります。

デュポン社製カルレッツ®

デュポン(DuPont)社はアメリカに本社を置く化学メーカーです。世界中に拠点があり日本では栃木県宇都宮市に研究所があります。カルレッツ®はパーフロOリングの先駆者と言え、後述するメーカーは素材メーカーですが、デュポン社のみが原料ゴム製造からOリング製造までを担っています。

カルレッツ®という名前はパーフロOリングを使用する方であれば一度は耳にしたことがある名前です。デュポン社の商標であるカルレッツ®は、有名ですので「カルレッツ®とパーフロの違い」についてよく質問を受けますが、回答としては「カルレッツ®はパーフロの一種」となります。後述するメーカーと違って、カルレッツ®の材料は販売しておらずOリングやシートなどの加工品のみ販売されています。

AGC(旭硝子)社製AFLAS®(アフラス)

AGC株式会社は日本のガラスメーカーです。最近では広瀬すずのCMでもお馴染みの「素材でがんばるAGC」というだけあってガラスだけではなく、あらゆる素材を扱っており、パーフルオロエラストマーのAFLAS®(アフラス)もその一つです。アフラス®はカルレッツ®のようにOリングとして発売はされておらず、アフラス®材料を購入したシールメーカーが独自配合を加えOリングにしています。

3M™社製ダイニオン™

3M™(スリーエム)社はアメリカに本社を置くメーカーです。接着剤やフィルムなどの工業用資材から、ラベルやポストイットなどの事務用品の製造販売を行っています。ダイニオン™は3M™のフッ素ポリマー製品として販売されています。こちらもアフラス®同様、素材のみの販売です。

3M™はPFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)の製造を2025年末までに終了すると発表しました。PFASの製造中止によりダイニオン™についても同様の2025年末で製造が中止となります。

ソルベイ社製テクノフロン®

ソルベイ(SOLVAY)社はベルギーに本社をおく化学メーカーです。テクノフロン®はソルベイ社のパーフルオロエラストマーになります。

ダイキン工業製ダイエル

ダイキン工業は日本に本社を置く空調機器メーカーです。空調機器のほかにも化学事業、フィルタ事業なども展開しています。ダイエルはダイキン工業社のパーフルオロエラストマーになります。またダイキン工業グループの東邦化成がDaikin Ultra Pure Rubber Artsの頭文字をとってDUPRA(デュプラ)という商品名でパーフロOリングを販売しています。

パーフロOリングのメーカーについて

今回は数あるパーフロメーカーの中から、弊社で比較的問合せが多い商品をご紹介します。

デュポン社製カルレッツ®

前項のパーフロ素材メーカーでも紹介しましたが、デュポン社のみが原料ゴム製造からOリング製造までを担っています。

カルレッツ®には化学・食品・半導体などの業界に適したラインナップがあり、多くは「4079」「7075」などといった数字4桁で品番が決められています。アメリカで製造しており在庫も保有しています。通常納期はアメリカに在庫があれば1か月、在庫がなければ2か月ほどでしたが、近年は納期が長期化しています。デュポン社はアメリカ ニューアーク州にカルレッツ®の製造工場を開設し、2023年8月から新工場で加工された部品の出荷が開始される予定です。余談ではありますが、現在のFFKM納期問題の糸口になればいいなと、販売している弊社としては願うばかりです。

バルカー社製フローリッツ®

バルカーは化学、エネルギー、半導体などあらゆる産業向けにふっ素樹脂、高機能ゴムなどの設計、製造、加工及び販売を行っている会社です。バルカーはパーフロOリングとしてフローリッツ®SB、フローリッツ®TR、フローリッツ®HSを販売しています。

エア・ウォーター・マッハ社製エコーパーフロ

エア・ウォーター・マッハはエア・ウォーター社グループの1社で工業用ゴム製品および樹脂製品の製造、販売を行っています。エコーパーフロという商品名でパーフロOリングの販売を行っており、黒、白、透明色のラインナップがあります。

桜シール社製フロロパワー

桜シールは工業用ゴム部品を取り扱う商社として設立され、現在は中国に子会社、台湾に工場を構えるOリングメーカーです。2011年にパーフロ材質であるフロロパワーの開発が発表され、現在は耐熱370℃という耐熱性を持ち合わせたフロロパワーFFSGや耐O2プラズマグレードなど業界別やあらゆる環境で使用できるよう、約14種類ものラインナップがあります。

その他のメーカー

記載したメーカー以外にもニチアス社のブレイザー、森清化工のモリセイパーシティーシリーズ、グリーンツィード社のケムラッツ、タガミシールのEXZEUSシリーズなどが流通しています。弊社ではいずれも商品も取り扱いができますが、納期が長期化しています。もしいずれかのメーカーで運よく在庫があれば短納期で納品が可能ですので一度お問合せください。使用しているメーカー以外でも使用条件(流体、温度、圧力など)を教えていただきましたら類似品を提示できます。

パーフロの歴史

上述の通り現在ではパーフロの原料メーカーもOリングメーカーも複数ありますが、パーフロの始まりは約40年前になります。

1957年にフッ化ビニリデン・六フッ化プロピレン共重合体から成るフッ素ゴムが開発されました。それ以来20年を経て、優れた耐熱、耐油性が評価され、2元系FKMが代表的な存在となりました。そこから加工性や圧縮永久ひずみに関する改良研究が積み重ねられた一方、フッ素の持つ特異な性質を利用した別種のフッ素ゴムの開発も意欲的に行われてきました。1970年、デュポン社はC-H結合を含まない完全フッ素化ゴム、カルレッツ®を開発しました。カルレッツ®のカタログには40年以上供給していると記載されていますので1980年前後より発売されたのがパーフロの始まりとなります。

(日本ゴム協会誌「フッ素ゴム」参照)

パーフロの納期が長期化している理由

2023年3月現在でもパーフロの納期遅れが目立っていることが、現実です。様々な業界・設備で採用されているパーフロですが、それでは、どういった理由により各社の納期遅延が生じているのでしょうか? それは、複合的な要因により発生しているため、紹介します。

材料不足

パーフロを構成するフッ素は化合物である蛍石に含まれています。蛍石は中国産が約6割と言われており、生産主要国の中国で生産量が規制されていることで材料不足が発生し、納期が長期化しています。

ロシアによるウクライナ侵攻

ゴム製品の補強材として添加され、タイヤが黒色である理由にもなっているカーボンブラックですが、著名な原産地としてロシアが挙げられます。パーフロも黒色のラインナップが大半のため、添加されています。元々ロシア産カーボンブラックは欧州向けが多く、日本でロシア産ではなく中国産やインド産を採用しているケースは多かった模様です。しかし、ロシアから欧州向けの輸出量が減ったことにより、欧州向けカーボンブラックは日本の輸入元である中国やインドへ切り替わっています。結果として、アジア圏内でのカーボンブラックも供給不足となり、値上げも続いています。

メーカーの生産工程逼迫

材料不足が原因である場合は物理的に生産不可のため、受注停止の回答となります。しかし各社への材料供給が芳しくない状況でありながら、反対に材料に余裕のあるメーカーも存在するのが現実です。それでは材料に余裕のあるメーカーへ依頼すれば、そうではありません。従来メーカーから購入できなくなった会社が代わりに供給可能なメーカーへ注文することで、受注数が殺到し、生産状況が逼迫化することが多々あります。そして、受注制限は無かったとしても、実質的に納期未定となるケースもあります。

気候変動

自動車部品や輪ゴム原料などで使用される材質として「天然ゴム」が挙げられます。ゴムの木の樹液を原材料としており、主な原産地はタイ・マレーシア・インドネシアなどの東南アジア各国です。気候変動の影響を受けやすく、洪水や疫病などにより入手性が悪化しているとのことです。

パーフロの代替提案で好評のNKリング

入手困難な状況下ですが、弊社ではパーフロの代替提案で受注数が急増した製品があります。それはNKリングです。

NKリングとは

NKリングとは、ゴムOリング(FKM or Silicone)の外側にフッ素樹脂(FEP or PFA)を被覆したことにより、耐薬品性と弾性を併せ持った製品です。一般的に、「被覆Oリング」と呼ばれたりもします。PTFE(テフロン™)のコーティングではなく完全に覆った被覆タイプのため、コーティング剥離の心配がなく、耐久性劣化のリスクを低減できます。


実際にパーフロの納期でお困りの方へ弊社から代替提案したことにより、毎月数十本~数百本のNKリングを納品しております。
メーカーの生産状況によっては、追加料金で特急対応も承ることが可能です。

2019年に公開した『パーフロの激しい納期変動でお困りの方へ、NKリングは納期が変わりません!』ですが、公開から3年以上経過した2023年5月現在でも、このページをきっかけとして多くのお問い合わせをいただいております。

不向きな使用箇所

但し、1点注意点があります。NKリングは、原則固定用途でのご使用を推奨しております。というのも、バルブ摺動部程度の運動であれば問題なくご使用いただけますが、表面の樹脂が硬く、運動用としてはシール性が不十分なことがあるからです。そのため、作動速度の速いシリンダーなどの運動用途では、代替のご使用をお勧めできません。

USP Class VIやFDAにも準拠

パーフロを採用されているお客様の中には、パーフロの持つスペックではなく、準拠規格を評価して使用されている方もいらっしゃいます。但し海外規格に準拠したパーフロの大半は海外メーカーとなり、これまで紹介した諸要因の例に漏れず、入手困難な点でお困りのお客様もいらっしゃいます。
NKリングはUSP Class VIやFDAといった海外規格に準拠しているため、海外規格準拠品の製品の入手性が悪化した場合であっても、代替製品としてご検討いただけます。※但し、準拠は被覆材のみ。

最後に

パーフロの定義から現状の供給状況、またその解決策としての代替製品についても紹介しました。

貴社のご使用設備・条件において、パーフロの代替としてご好評いただいておりますNKリングが使用できるかどうかご不明の場合、一度以下の問い合わせフォームよりご相談いただけますと幸いです。パーフロのお見積り依頼も承りますので、ご相談お待ちしております。

【執筆者:Y.N.】

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